モテ女になると決めた日
忘れもしない。
数ヶ月前。
今年こそは、新しい自分になりたくて
恋愛ハウツー本を読み始めた前後。
マッチングアプリで彼と知り合った。
イケメンなのはわかるし身長が高いのもわかる。
でも私の好みの塩顔ではないという理由で、
当初、彼の優先順位はそこまで高くなかった。
今ではとても考えられないが、私は彼からのメッセージを既読スルーしながら旅行に行き、帰宅した翌日、退屈凌ぎに返信をしたのだ。
「旅行に行っており返信できませんでした。まだいい人が見つかっていなければ仲良くしてください」。
彼からはその日のうちに返信があり、1時間程度アプリの通話機能で話したころ、LINEを交換した。
その後はとんとん拍子。
電話して、デートして、電話して、デートして。
毎日彼からはハートマークが飛び交うメッセージが届いた。
人間不信の私は、そのハートマークの意味を調べてはひとりニヤついた。
彼は、写真より実物の方が顔が整っていて、笑顔がキラキラしていた。
見た目は男らしいのに、電話だと少し甘えり嫉妬をする彼を可愛いと感じた。
これからうまくやっていけると思った。
しかし永遠はやってこない。
彼の既読スルーは今日ついに7日目を迎えたのだ。
話は2週間前に戻る。
最後にデートした翌々日あたりだったか。
LINEの返信が心なしか遅く感じた。
何か胸の奥でざわつきを感じ始め、ハウツー本の著者のインスタに救いを求めた。
「男性は、仕事に夢中になると返信がなくなる」
「返信が来たときは『忙しいのに連絡くれてありがと♡お仕事頑張ってね!』と返してあげて」。
「なるほどそういうことか」、と妙に納得し、ハウツー本の言いつけどおりに「ありがと♡」「お仕事頑張ってね」をバカの一つ覚えのように繰り返していた。
今思えば、壊れかけのradio状態だったと思う。
今後は男性を支える女になるのだ、男を応援するのだ、返信もまぁまぁ来ているから、大丈夫だろうと鷹をくくった頃に、毎日来ていたLINEがぱたりと来なくなった。
「言いつけどおりにしたのになぜ?」
頭は混乱でいっぱいだった。
失いたくない男なのだ、失ってはいけないのだ。
さすがにここに追いLINEをしたら気持ち悪いのはわかっている。
だからこそ何もできずに途方に暮れた。
-「モテる女は1人時間を大切にする」。
酒を浴びた。
-「モテる女は常にご機嫌」。
ポジティブになるために酒を浴びた。
-「モテる女は自分を幸せにする」。
幸せがわからなくて酒を浴びた。
このままではアル中になる勢いだったので、気分転換に縁結びをしに行った。そして藁にもすがる思いで恋愛に関する記事をたくさん読んだ。
そこでとうとう「私は愛される実験を始めた。」に出会ったのだ。
面白くてどんどん読み進めた。
そしてわかったことがある。
彼からLINEが来なくなった理由は仕事に夢中なのではなくて。私の優先順位が低いから。俺のものにしてしまったから。興味をなくしただけだと。
いまだに信じたくはない。
だけどそれが当てはまる。
ハウツー本なんかより、もっと心がざわざわして。
「お前はもう要らない」と言われた気分になった。最初は私のほうが興味なかったのに。まんまと沼に落とされて、振り向いたら用無しって。
すごく悔しい。
そして私は決意した。
「必ずモテ女になる」。
小説に出てくる主人公のように、この男を釣り上げるために学ぶのだ、と。
何度読んでも、小説に登場するイケメンのテラサカさんは、彼で脳内再生されている。
「あなたは同じ道を辿らないでほしい」と願いを込めながら、いつかくる彼との対戦に備えて、私はここに記録を始める。